「私の歯並び、矯正した方がいいですか?」これは、私たちが日々の診療で最もよく受ける質問の一つです。全ての歯並びの乱れが、即座に治療を必要とするわけではありません。では、私たち歯科医師は、どのような基準で歯列矯正の「必要性」を判断しているのでしょうか。その基準は、大きく三つのレベルで考えることができます。第一に、最も必要性が高いと判断されるのが、「明らかな機能的問題」が存在する場合です。例えば、食べ物がうまく噛み切れない、咀嚼が困難である、特定の音が発音しにくい、顎が痛む、口が閉じにくいといった症状があるケースです。これらは、日常生活に直接的な支障をきたしており、QOL(生活の質)を著しく低下させています。この場合、歯列矯正は審美目的ではなく、失われた機能を取り戻すための、明確な医学的適応がある治療となります。第二に、現在は大きな自覚症状はないものの、「将来的なリスクが非常に高い」と予測される場合です。例えば、重度の叢生(ガタガタの歯)で、このまま放置すれば高い確率で重度の歯周病に進行し、将来的に歯を失う可能性が高いケース。あるいは、噛み合わせのバランスが極端に悪く、特定の歯に過剰な負担がかかり続けることで、その歯の破折や早期喪失のリスクが高い場合です。これは、将来起こりうる深刻な事態を未然に防ぐための「予防医療」としての必要性が高いと判断されます。そして第三に、機能的な問題や将来的なリスクはそれほど高くなくても、「患者さん本人が強いコンプレックスを感じている」場合です。客観的には軽度の不正咬合でも、本人がそれを深刻に悩み、人前で笑えない、自分に自信が持てないなど、心理的な負担が大きいのであれば、それは治療の必要性として十分に尊重されるべきです。矯正治療の目的は、心身ともに健康な状態を作り出すことです。あなたの悩みがこのいずれかに当てはまるのであれば、それは治療を検討する価値があるというサインです。まずは専門家による客観的な診断を受け、ご自身の状態を正しく知ることが、判断の第一歩となります。