顎関節症なら知るべき歯列矯正

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顎関節症を抱えている方が歯列矯正治療を検討する際には、いくつかの重要な留意点を理解し、適切なステップを踏むことが極めて大切です。まず何よりも優先すべきは、顎関節症と歯列矯正の両分野において深い知識と豊富な臨床経験を持つ歯科医師を選ぶことです。顎関節症は、その原因が噛み合わせだけでなく、ストレス、生活習慣、外傷、さらには全身疾患など多岐にわたるため、正確な診断と適切な治療法の選択には高度な専門性が求められます。同様に、歯列矯正も単に歯を並べるだけでなく、顎骨の成長発育、顔貌全体のバランス、そして長期的な安定性まで考慮した精密な治療計画が不可欠です。これらの治療を複合的に行う場合、歯科医師にはより包括的な視点と高度な技術が要求されるため、カウンセリング時にはこれまでの治療実績や治療方針について詳しく質問し、自身が納得できる説明を受けられるかを見極めることが肝要です。次に重要なのは、矯正治療を開始する前の徹底した検査と診断プロセスです。顎関節の状態を正確に把握するために、パノラマレントゲン撮影やセファログラム(頭部X線規格写真)に加え、必要に応じてCTやMRIといった高度な画像診断、さらには顎運動の解析や筋電図検査などが行われることもあります。これらの検査データと、口腔内の歯並びや噛み合わせの状態、さらには歯ぎしりや食いしばり、頬杖といった習癖の有無などを総合的に分析し、顎関節症の根本的な原因がどこにあるのか、歯列矯正によってどのような影響が予測されるのかを慎重に評価します。場合によっては、顎関節の炎症や痛みが強い時期には矯正治療の開始を見合わせ、まずスプリント療法(マウスピースのような装置を用いた治療)や薬物療法、理学療法などで顎関節の症状を安定させることを優先する方が賢明なケースもあります。矯正治療中においても、顎関節への配慮は欠かせません。歯を動かすために加えられる矯正力は、程度の差こそあれ顎関節にとって一種の刺激となり得ます。そのため、治療計画は顎関節に過度な負荷がかからないよう、歯を動かすスピードや方向、使用する矯正装置の種類(例えば、ブラケット装置かマウスピース型矯正装置かなど)を慎重に選択する必要があります。