歯列矯正の費用が医療費控除の対象となることは広く知られるようになってきましたが、その適用条件や申告手続きにはいくつかの重要なポイントがあります。税理士の立場から、歯列矯正費用を医療費控除として確定申告する際の鍵となる事柄を解説いたします。まず、医療費控除の基本的な考え方として、その支出が「治療」を目的としたものであることが大前提です。歯列矯正においては、単に容姿を美化するためのものは対象外とされ、咀嚼障害、発音障害、顎関節症の改善など、医学的な必要性が認められる場合に限り、医療費控除の対象となります。この医学的な必要性を客観的に示すためには、歯科医師が発行する診断書が極めて重要な役割を果たします。診断書には、具体的な症状と治療の必要性が明記されていることが求められます。次に、控除対象となる費用の範囲です。矯正装置の費用、診察料、検査料、調整料はもちろんのこと、治療のために公共交通機関を利用した場合の交通費も含まれます。デンタルローンやクレジットカードで分割払いした場合、信販会社等が立て替えて支払った金額が、その支払った年の医療費控除の対象となりますが、金利や手数料部分は対象外となる点に注意が必要です。また、医療費控除を申請する際には、支払った医療費の総額から、生命保険や医療保険から受け取った入院給付金や手術給付金などを差し引いた金額で計算します。歯列矯正の場合は、高額療養費制度の対象とはなりにくいですが、何らかの補填があった場合は忘れずに申告する必要があります。確定申告の手続きにおいては、医療費の領収書を基に「医療費控除の明細書」を作成し、申告書に添付します。領収書自体は、税務署から提出を求められるまで自宅で5年間保管する義務があります。近年はe-Taxによる電子申告が推奨されており、手続きの簡便化が進んでいます。ご自身のケースが医療費控除の対象となるか、また具体的な手続きについて不明な点があれば、税務署の窓口や税理士にご相談いただくのが確実です。