歯列矯正治療の期間中に、顎に痛みを感じたり、口が開けにくくなったり、カクカクといった音が気になったりすることは、残念ながら起こり得ることです。これは、歯が動いて噛み合わせが変化する過程で、顎の関節やその周囲の筋肉が新しい状況に適応しようとする際に、一時的なストレスがかかるために生じることが多い現象です。もし矯正中にこのような顎の不調を感じた場合、最も大切なことは、自己判断で放置したり、市販の鎮痛剤だけでごまかしたりせずに、まずは速やかに担当の矯正歯科医に相談することです。歯科医師は、あなたの症状を詳しく聞き、口腔内や顎の状態を診察することで、その原因を特定しようとします。原因としては、矯正装置の一部が粘膜に当たっている、噛み合わせが一時的に不安定になっている、無意識の食いしばりや歯ぎしりが増えている、あるいは元々あった顎関節の問題が治療の進行に伴って顕在化してきた、などが考えられます。歯科医師は原因に応じて、適切な対処法を提案してくれます。例えば、ワイヤーやブラケットの調整が必要な場合もありますし、一時的に非常に柔らかい食事を心がけるよう指示されたり、顎の筋肉の緊張を和らげるための簡単なストレッチやマッサージの方法を教えてもらったりすることもあります。症状が強い場合や、日常生活に支障が出るほどの痛みがある場合には、矯正治療の進行を一時的に緩めたり、場合によっては短期間だけ治療を中断して顎関節を安静にさせることも検討されます。その際には、顎関節への負担を軽減するためのスプリント(マウスピースのような装置)を夜間などに使用したり、炎症や痛みを抑えるための消炎鎮痛剤が処方されたりすることもあります。重要なのは、顎関節に過度な負担をかけ続けないようにすることです。また、日常生活におけるセルフケアも、矯正中の顎の不調を軽減し、悪化を防ぐために役立ちます。まず、食事の際には、硬いものや大きな塊の食べ物を無理に噛もうとせず、小さく切ったり、柔らかく調理したりする工夫をしましょう。フランスパンやスルメのようなものは、症状が落ち着くまでは避けた方が無難です。ガムを長時間噛む習慣や、無意識に行っている頬杖、うつぶせ寝なども、顎関節に余計な負担をかける可能性があるため、意識して避けるように心がけてください。
矯正中の顎の痛みにどう対処する?