田中さん(仮名・28歳女性)は、数年前から食事の際に右側の顎関節で「カクッ」という音が鳴ることに気づいていました。当初はそれほど気にしていませんでしたが、次第に音が大きくなり、時には軽い痛みを伴うようになりました。特に硬いものを噛んだ時や、大きく口を開けた時に症状が現れやすく、日常生活で顎のことを意識する時間が増えていきました。彼女の歯並びは、下の前歯が少し叢生(デコボコ)になっている程度で、本人としてはそれほど大きな問題とは感じていませんでした。しかし、顎の不調が続くため、近所の歯科医院を受診したところ、顎関節症の初期段階であると診断され、マウスピース(スプリント)治療を勧められました。数ヶ月間スプリントを使用することで痛みは軽減しましたが、根本的な解決には至っていないと感じていました。そんな折、友人の紹介で顎関節症と歯列矯正を専門的に扱っている歯科医院の存在を知り、セカンドオピニオンを求めて訪れました。その医院での精密検査の結果、田中さんの顎関節症は、関節円板と呼ばれる軟骨組織の軽微な位置異常と、噛み合わせの際の微妙な早期接触が複合的に関与している可能性が示唆されました。特に、奥歯で噛みしめた際に、下顎がわずかに後方に押し込まれるような力がかかり、これが顎関節に持続的なストレスを与えていると分析されました。歯科医師は、歯列矯正によって全体の噛み合わせを均等にし、下顎がスムーズかつ安定した位置で機能できるようにすることで、顎関節への負担が軽減され、症状の改善が期待できると説明しました。田中さんは、根本的な原因にアプローチできる可能性があるならと、歯列矯正治療に踏み切ることを決意しました。治療計画では、まず顎関節の炎症を完全に鎮静化させるために、数週間、特殊なスプリントを装着し、その後、上下の歯列に透明なマウスピース型矯正装置を用いて、約1年半かけて歯を動かしていくことになりました。治療開始当初は、新しいマウスピースに交換するたびに歯が浮くような感覚や、噛み合わせの変化による一時的な顎の違和感がありましたが、歯科医師の指示通りに装着時間を守り、定期的なチェックを受けることで、徐々に歯並びが整っていくのを実感しました。矯正治療が中盤に差し掛かる頃には、気にしていた顎のクリック音の頻度が明らかに減り、食事中の不快感もほとんどなくなっていました。
歯列矯正で顎の悩み解決事例